絵本で育むマインドフルネス。子どもが「今この瞬間」を味わう2冊
2026.09.15
絵本研究家であり、「非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180」の著者である寺島知春さんによる、おすすめ絵本紹介のコラム。今回のテーマは、「絵本とマインドフルネス」です。
マインドフルネス体験を絵本で
絵本を開くことはマインドフルネスになり得ると、常々考えています。マインドフルネスとは、「今この瞬間」に気づいていること。つまり、自分の心が自分の体という「ここ」にしっかりあると感じられる状態をいいます。こうあることは何でもないように思えて、実のところ、とても大切です。ところが、忙しない現代社会では難しいことも多いのが実情です。
一冊の絵本を開くと、子どもはページ上に注意を向け始めます。彼らが絵本の画面に見入る時は、目の前の絵や物語に集中して楽しんでいる時です。
この没頭をあくまで遮らないように、傍らの大人が声をかけると、子どもがマインドフルネスに近い状態を得られることがあるでしょう。大人は「わあ、主人公は〇〇しているね。どんな手触りだと思う?」「この場所ってどんな匂いがするんだろうね」などの声かけをしてみてください。子どもが絵本に夢中な時、彼らはたいてい主人公になりきって物語を疑似体験しています。物語に出てくる匂いや手触りなどを具体的にイメージしているかもしれません。こうした細部に改めて意識を向かせるきっかけがあると、子どもは想像世界の細かな感触の1つひとつを確かめることができます。
それはまさに、彼らの内面に立ち上がったイメージという「今この瞬間」に焦点を当てることです。想像の中であっても子どもが「こんな感覚がするなあ」とつぶさに気づいていくことは、例えば「〇〇したらゲームしていい」といった未来でも、「さっきは〇〇できなかったな」といった過去でもなく、現在だけを意識し味わえていることです。絵本を通したマインドフルネスな体験といえるのではないでしょうか。
子どもにとって面白い作品を
絵本を前にすると、特別頑張らずとも子どもはごく自然にマインドフルネスに近い状態を得られます。さて、彼らがこれに入っていきやすいのは、どんな時でしょうか?
それはやはり、子ども自身が面白くて仕方なく、目が離せないくらいに気に入った作品を開いている時です。そしてまた、そういう作品の中で、落ち着いた呼吸をおのずと思い出せる内容のものも有効です。この視点で、今回は2冊の絵本を選んでみました。
絵本は日常に置かれた非日常。美しい絵や言葉を介して想像が膨らみ、その子本来の息遣いを思い出させてくれることがあります。
絵本や遊びで心身を取り戻す
私自身も、日々のリズム作りにマインドフルネスを取り入れています。つい周りのいろいろに流されて心ここにあらずの状態になりやすい自分には、心身のつながりを取り戻すために、もはや欠かせないものです。
また、美術遊びのワークショップで、「今この瞬間」に立ち戻る気持ちよさを人々に手渡してもいます。私は絵本研究家と並行してワークショップの開発・提供も行っており、プログラムを作る際に美術教育と芸術療法の両方を織り交ぜています。その中で現在に立ち戻れる動きを取り入れることがあるのです。
ワークショップには、子どもも大人もやって来ます。特に絵本を用いる時には、どんな年代にもこのメディアが、遊びの最中でよいパフォーマンスを発揮するのをひしひしと感じています。
専門家がおすすめ!
マインドフルネス体験ができる絵本2選
没頭できる一冊で
「今この瞬間」を手にする
小学校低学年ごろ〜誰でも
『がっこうに まにあわない』

ザ・キャビンカンパニー/作
あかね書房 2022年
朝7時47分、ぼくは玄関を飛び出して走り始めます。急げ、急げ。急がないと学校に間に合いません。でも、いつもの道のはずが、今日は何だか変なのです。大きな水たまりには人食いワニがいるし、角を曲がれば巨大な犬がうなっていて——。時間は刻々と迫り、焦ったぼくの体には緊張が走ります。さて、大変な登校の結末やいかに。

人気作家ユニットによる、疾走感あふれる一冊です。読者の視点の欲求につぶさに応える複雑な味わいの画面が、子どもの目をくぎづけにし、絵本の世界にとっぷりと引き込みます。ぐっと物語に没頭し、子どもとさまざまな感覚をともにしてください。駆け抜けた先の意外なラストも小気味よいです。
カメのマイペースさに
落ち着いた呼吸を思い出す
3・4歳ごろ〜誰でも
『いそがなくても いいんじゃない?』

イーティン・リー/作 橋本あゆみ/訳
化学同人 2024年
カメはある日、遠くの山を眺めて「いつか のぼってみたいな」と言いました。同じせりふを何度も聞いてきたウサギは「あした いこうよ!」。そうです、カメはのんびり屋で、ウサギはせっかち。ようやく出発する段にも、カメはウサギを待たせたまま、あれもこれもとのんびり丁寧に準備を楽しみます。焦れたウサギが叫んで、ようやく旅が始まりました。けれど、2匹は道中で……。

正反対の個性が光り合うお話です。現代に生きる私たちはともすればスピード感をもって行動するウサギを良しとしがちですが、本来そればかりが正義でもありません。ゆったりと自分の軸で行くカメの姿は、マインドフルネスです。カメの場面を読む時、落ち着いた呼吸に意識を向けられるとよさそうです。
※「対象年齢」は寺島知春先生の基準によるものです。各絵本の出版社が提示しているものとは異なる場合があります。
PROFILE
寺島知春

絵本研究家/ワークショッププランナー/著述家。東京学芸大学大学院修了、元・同大個人研究員。約400冊の絵本を毎晩読み聞かされて育ち、絵本編集者を経て現在に至る。著書に『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム新社)。ワークショップと絵本「アトリエ游」主宰。表現アートファシリテーター、精神保健福祉士。

HP:terashimachiharueh.wixsite.com/atelieru
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Kids Well-being VOL.1(2026年春号)より転載
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